前号まで3回にわたってペルーの紹介をしてきました。今回から再び中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(Feasibility Study: F/S)を考えていくにあたって、以前のオサライを少しばかり。
このテーマは、芳野剛史氏が著した「海外進出のためのフィージビリティスタディ」中央経済社.(2015)を基に、筆者が特に重要と考えた箇所の引用を中心としてまとめています。この著書はとても読みやすく有意義な情報が満載ですので、詳しく知りたい方は購入をお勧めします。
企業が海外進出するときの段階は、計画、設立、運営の3つにより構成され、F/Sは、計画段階中の「事業企画案」と「詳細事業計画」の間に位置して事業実施の一次判断に用いられます。新たに海外進出する場合、市場や規制などをゼロから調べなければならず、情報収集も日本国内で行うものよりは困難な場合が多いです。そこで、「詳細事業計画」に着手する前にF/Sを実施してその検証結果が良ければ、次ステップとして「詳細事業計画」に入ればよいというわけです。
1. 事業のビジネスとしての「実現可能性」を検証する調査
本コラムで取り上げるF/Sとは、事業のビジネスとしての「実現可能性」を検証する調査のことです。海外進出においてF/Sが必要となる主な理由には、下の図に示すとおり①初期投資が大きい、②ビジネススピードの重視、③外資規制・業種規制の影響、④市場環境・競合環境の特殊性の4点が挙げられます1)。以下、一つずつ見ていきましょう。
2. なぜ、F/Sが必要なのか?
① 初期投資が大きい
当然のことではありますが、海外で新たにビジネスを始める場合、ほぼすべてをゼロから立ち上げることになるので、より多くの費用が必要となります。この初期投資を回収できるのかを見極めたいところです。見方を変えると、「初期投資が大きい」または「撤退費用が大きい」というケースに該当しない場合はF/Sという調査が不要、ともいえます。
② ビジネススピードの重視
事業の経営者としては、ある事業アイデアの素晴らしさよりも、現実的な実施可能性や採算を重視し、フィールドでの実施可能性を早々に判断したいところです。つまり、組織内での検討や議論はそこそこにして、現地で実施可能性を検討・判断することに価値があります。
③ 外資規制・業種規制の影響
外資規制や業種規制は、日本国内の常識だけでは判断できず、国や地域によって様々ですので、詳細検討の前に確認すべきです。実際に意外なところで苦労する場合やビジネスモデルの前提に影響するケースもありますので、踏み込む前の確認が求められます。
④ 市場環境・競合環境
進出先の市場や競合環境などの「特殊性」を事前に把握することも重要です。日本人が想像もしない顧客動向、日本では考えられないコストなど往々にしてありますので、考慮すべき事項の事前把握が求められます。そもそもの考慮すべきことが何なのかさえ分からないことが多いですので、詳細検討に入る前に整理しましょう。
3. 海外進出においてF/Sで行う検証
F/Sにおいて、懸案事項は事業ごとに異なるものでしょうが、主には①市場性の有無、②事業展開に向けたオペレーション構築の実現性、③進出先の規制への適用性、④総合的な採算性の4点になるでしょう。以下、見ていきましょう。
① 市場性の有無
顧客、競合、代替品の3つの観点から、市場性の有無を総合的に検証します。特に競合・代替品の観点からは、自社の競争優位性を客観的に分析することが重要となります。
ここで他者を見ず、自社の優れた点のみを盲信してしまうのは禁物です。(←そんなケースが多く見られます。要注意です!)
② 事業展開に向けたオペレーション構築の実現性
ここでいうオペレーションとは、進出国で提供する製品・サービスを支える機能を指します。例えば、インフラが未成熟な途上国などでのバリューチェーンの展開には、このオペレーション上の問題がクリティカルになることが多いです。
③ 進出先の規制への適用性
進出先での規制に対しては、単に「クリアできる、できない」の二者択一ではなく、規制を前提とした代替案を検討することが重要となります。
④ 総合的な採算性
F/Sの最終結論ともいえるのが「採算性」でしょう。売上および初期・ランニングコストの予想から採算性を検証します。資金計画の妥当性もこの段階で確認します。
今号を読んで頂きまして有難うございます。事業の事前段階では不明な点が多く、またこのような検討は面倒という印象がありますが、この手間が作業の効率を高めたり、迷走したときの振り返りに役立つことが多くあります。だからこそ、F/Sの実施を強くお勧めします!次号ではF/Sでの作業内容(計画)を見ていきます。
1) 「海外進出のためのフィージビリティスタディ」芳野剛史著(2015)を基に筆者が作成.
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