本邦企業が中南米との貿易でTPP11をどのように活かすか(その1)

1. はじめに


 本ビジネスコラムでもたびたび取り上げてきたTPP11は、2018年3月8日に11カ国で署名、同年7月6日には日本国内での手続きを完了し、同年12月30日にはTPP11が発効されました。現在、日本を含む7か国が国内手続きを終え、残る4か国でも手続きを進めているところです。マスメディアのTPPへの注目は、交渉の行方や米国の離脱など、2017年から2018年あたりの紆余曲折を山場に、現在小休息の感があるように思われますが、我々のビジネスでは発効後にこれをどのように活かすのか、ということが重要な関心事となります。今号から3回にわたって、「本邦企業が中南米との貿易でTPP11をどのように活かすか」、というテーマで見てまいります。


2. 貿易用語は難しい?


 何事も「難しい」とイメージさせてしまうものの一つが、数々のアルファベット表記での略語ではないでしょうか。貿易協定でいうと、TPP, FTA, EPAなどに加えて時折、日EU・EPAやRCEP(アールセップ)などといった略語が出てきて、貿易を専門としない人たちに抵抗感を抱かせます。特にFTAとEPAって、どう違うのか、というのは複数の議論や解説がみられます。ある書籍1)では、「FTAは関税削減、EPAはもっと広い自由化」としています。また、別の文献2)では「日本のFTAは、「経済連携協定(EPA)」の呼称が用いられてきたが、「EPA」は貿易の自由化に加え,知的財産や競争等の幅広いルールも規定する協定を意味する(現在ではFTAもEPAもほぼ同義)。」とあります。何となく「FTA/EPA」ぐらいに括って捉えても良いかもしれません。


3. 貿易協定の大別論


 元々、世界の貿易ルールは世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)の下、161の国と地域の全会一致が原則でしたが、先進国と途上国の対立により2001年から開始した交渉は停滞してしまいました3)。そこで二国間での自由貿易協定(Free Trade Agreement: FTA)や経済連携協定(Economic Partnership Agreement: EPA)が貿易交渉の主流となりました。いまや世界全体では、構想・検討段階、政府間予備協議などを含めると500件近い協定があり、そのうち2019年12月現在で320件が発効済または暫定的に適用されています4)。しかしながら、このまま世界中の国々の二国間で交渉を続けるのは非効率だということで、地域でまとまって交渉する動きが出てきました。それが「メガFTA」と呼ばれるものです。

 つまり、貿易協定にはいろいろな呼称がありますが、二国間の「FTA/EPA」と近年の大きなトレンド「メガFTA」の新旧二種類に大別できると捉えればスッキリしないでしょうか。


4. グローバルビジネスの大きなトレンド「メガFTA」


 世界の「メガFTA」には現在4つあります。その一つが本コラムのテーマの①TPP、去年2月1日に発効された②日EU・EPA、残る二つは交渉が難航している米国とEU間の③環大西洋貿易投資連携協定(Transatlantic Trade and Investment Partnership: TTIP)、そして東アジアというくくりで④東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership: RCEP, アールセップ)です3)。①と④とがさらに統合してFTAの最終形態ともいえるのが、アジア太平洋全域をまたがるアジア太平洋自由貿易圏(Free Trade Area of the Asia-Pacific: FTAAP, エフタープ)という壮大な構想です。


 今号も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。次号では、TPP11でのメリットをみていきます。



1) 「稼げるFTA大全」羽生田慶介、日経BP社、2018年7月16日.

2) 「TPP11の概要について」日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部上席主任調査研究員長島忠之、2019年3月13日.

3) 「【60秒解説】TPP、EPA、FTA・・・何が違う?」経済産業省、2015年11月9日.

https://www.meti.go.jp/main/60sec/2015/20151109001.html

4) 「世界と日本のFTA一覧(2019年12月)」JETRO, 2019年12月25日.https://www.jetro.go.jp/world/reports/2019/01/72c61ae87804b884.html

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。