TPP11協定の署名、米国を巻き込めるのか? 今後の動向(その2)

1. TPP11からTPP12へ、米国を巻き込めるのか?


 前号に引き続き、TPP11協定について見ていきます。TPP11の署名にリーダーシップを発揮したはずの日本での発効に向けた国会審議が遅れていること、署名した他国がその行方を見守る姿勢を取っていることから、先頃までは目標とする2019年の発効は不透明との懸念が指摘されていましたが、そこはクリアされる方向に動いているように見られます1)。課題は、超大国米国をTPPに復帰させられるか、という点でしょう。

 米国を含むTPP12とTPP11は別個の協定とのことです。下表は、米国の参加有無でのTPPが世界シェアに占めるGDPと貿易額を示しています2)。この表にあるとおり、米国の参加有無でその経済的規模が大きく変わってきます。域内輸出額は、米国が抜けることで1兆8,470億ドルから3,580億ドル(比率約19.4%!)にまで縮小するそうです3)。米国トランプ政権の視点で考えると、TPP12は知的財産権に関する課題を重視する協定であり、また共和党の支持母体である商工団体や農畜産団体はTPP12への復帰を政権に働きかけているといいます。同政権は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に注力しているところで、また2018年11月には中間選挙を控えているので、動きがあるのは2019年初頭からとなるでしょうか。

2. あるいはTPP16への展開


 米国のTPP12への復帰には全体的な再交渉が不可欠と予想され、それには日本を含むTPP11署名国は否定的のようです4)。他方、韓国、台湾、インドネシア、タイ、フィリピンの5カ国がTPPへの参加に関心を表明しており、これが実現すれば同協定の利益は3倍となり、米国の不在を補うものとなるそうです。これがすなわちTPP16と呼ばれる一つの可能性です。韓国は2018年3月27日に米国と妥結したFTA再交渉で不利な条件を呑んで渋面しているそうです5)。このように、米国抜きのオプションが進展したなら、米国の不利益が拡大されることが予想され、そうなると米国の交渉の仕方も変わってくるということが考えられます。米国に妥協すべきでないという警戒色の強い論調のマスコミが多いですが、私は条件の一つ一つを精査した上で日本の国益に繋がる形での米国のTPP復帰を促すべきと考えています。


 今号も読んで頂きまして有難うございます。これまで本ビジネスコラムでは、中南米のビジネス環境や関係する国際協定などの情報をマクロ的にご紹介してきました。次号からは、この市場に対する具体的なアプローチを提案してまいります。


1) TPP11関連法案は、2018年5月24日に衆議院本会議を可決.TPP11は、参加11カ国のうち、6カ国以上が国内手続きを終えてから60日後に発効するが,日本はメキシコに続き2カ国目の国内手続き完了を目指す.「日本経済新聞 電子版」他(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30906460U8A520C1000000/?n_cid=SPTMG002)

2) 『ラテンアメリカ・ブ研究所レポート』「安倍政権主導のTPP11の行方:ラテンアメリカ3参加国(チリ、メキシコ、ペルー)の交渉姿勢?」(上)、桑山幹夫著.2017.

3) 『ラテンアメリカ・ブ研究所レポート』「TPP11協定の意義 ― 日本 とラテンアメリカ3か国の視点を念頭に置いて」桑山幹夫著.2017.

4) 例えば、「参加国の多くは、アメリカを呼び入れるために長く厳しい交渉をやり直すことに前向きでない。」ニューズウィーク日本版、2018年4月6日.

(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/tpp11-1.php)

5) 米韓は米国基準のまま韓国で販売できる米国車の枠を倍増する反面、韓国産のピップアップトラックの関税撤廃時期を2021年から2041年に20年延長した。 文献3)より。

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。