TPP11協定の署名、米国を巻き込めるのか? 今後の動向(その1)

1. 2018年3月8日、米国を除いたTPP11が署名される


 今号では、2018年3月8日、11カ国でチリの首都サンチャゴにて署名された「包括的および先進的な環太平洋連携協定」(英語略:CTTP、通称TPP11)を取り上げます。つい先日、2018年5月18日には日本の衆議院本会議にて協定内容が国会承認されました2),3)。

 TPPについては、本ビジネスコラム第4号(2017年9月22日)でも取り上げました4)。そこでは、筆者はTPPの今後の展開を①11カ国での発効、②米国の離脱は、いわゆる”No, but~”の交渉プロセスに過ぎず、復帰も視野にある、あるいは、③将来的なトランプ政権の交代による米国の方針転換、などと予測していました。この頃、米国を除く11カ国での調整には時間を要する、米国復帰の可能性はかなり低いと言われていましたが5)、日本の主導により署名に漕ぎ着けましたし、米国はTPP復帰を検討すると表明6)したことから、かの国の”No, but~”は交渉の基本通りともいえるのではないでしょうか。ただ、現在のところ米国が交渉の主導権を握っているとは言えないように思われます。


2. TPP11が日本とラテンアメリカを繋げるインパクト


 ここでは、TPP11が日本とラテンアメリカの署名3カ国(メキシコ、ペルー、チリ)との関係にどのようなインパクトを与えるのか、ラテンアメリカ協会の資料から見ていきます7)。その資料は、ラテンアメリカ・カリブ研究所の内部研究会であるラテンアメリカ・カリブ政策フォーラムに参加する官産学のラテンアメリカ専門家25名への無記名方式アンケートの結果を整理したものです。

 関係上最もプラスになる点は、「通商拡大」(32%)、次いで「企業活動環境の改善」(28%)、「政策対話の促進」(24%)と回答されています。また、副次効果として特に注目されるのは、「太平洋同盟」(14)、「TPPへの米国復帰の促進」(12)、「ラテンアメリカの日本市場への関心増大」(12)となっています(複数回答方式)。

 TPP11は関税削減の効果だけでなく、新しい貿易ルールの導入による資源配分や生産性の向上、サービス貿易や投資拡大が期待できる、さらに今後のFTAのモデルになる可能性を秘めており、アジア太平洋のみならず他地域でも規範になり、他メガFTAとの補完性の改善に役立つ、とある論説で主張されています8)。その一方で、TPP11に参加するオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、シンガポールは、「太平洋同盟」と「準加盟国」資格について2018年2月からメキシコ、ペルー、コロンビア、チリと交渉に入っており、メキシコ、ペルー、チリにとって、TPP11の発効は必ずしも最優先事項ではないのかもしれないとの指摘もあります9)。または、「米国がいなくても、 TPP 11は人口 5億 4,400万人の市場を開拓して、世界3位の経済国である日本へ特恵待遇措置が講じられることで、参加国に新たな機会を提供する」との専門家の分析も紹介されています9)。また、世界銀行はペルーがTPP合意の最大の受益者として2030年までに輸出が10%増加し、またチリおよびメキシコも輸出が5%増加すると予想されているそうです10)。

 

 前号、中南米主要国のビジネス環境がアジアの途上国より優れる背景は、「中南米のアメリカナイズ」にあるのだろうか、という疑問について論考してみたい、と書きました。少し調べてみると、これはずいぶん重たいテーマです。そもそも、「アメリカナイズ」は和製英語で、「americanization(アメリカナイゼーションまたはアメリカニイゼーション)」というそうで1)、もう少し勉強する必要があることを自覚しました。時間をください。

 次号では、TPPにおいて米国の参加有無による差異、復帰への道程などを見ていきます。今号も読んでくださいましてありがとうございます。



1) Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

2) NHK News Web (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180518/k10011443191000.html)

3) TPP11は、参加11カ国のうち、6カ国以上が国内手続きを終えてから60日後に発効する。

4) 中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム 「TPPの現状 – 米国離脱表明の衝撃とその後の動き」、第4号(2017年9月22日) (https://lac-japan.amebaownd.com/posts/2977029?categoryIds=786702)

5) 米国のトランプ大統領が大統領選挙の公約の一つとしてTPP離脱を掲げ、2017年1月23日には「TPPから永久に離脱する」とした大統領令に署名した。

6) 2018年1月26日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて、トランプ大統領は「米国は相互互恵主義的な協定をあらゆる国と結ぶ用意がある。これはTPP加盟国を含む。二国間あるいはグループ単位で交渉してもいい」と述べた。「日本経済新聞」2018年1月27日付.

7) アンケート集計結果「TPP11とラテンアメリカ―協定が与えるインパクトを検討する」2018年4月23日

8) 浦田秀次郎 ピータ・ペドリ(2017)「TPP の行方:離脱不利益 米に説得を」 経済教室、 日本経済新聞、11月6日

9) 『ラテンアメリカ・ブ研究所レポート』「TPP11協定の意義 ― 日本とラテンアメリカ3か国の視点を念頭に置いて」桑山幹夫著.

10) 「ペルーとチリにとっては、アジア市場向けの国際商品(コモディティ)セクターへのアクセスが改善されることで利益が拡大する」、上記文献9)での専門家分析の紹介より.

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム,新大橋総合研究所

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。