中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇5)

 前号からフィージビリティスタディ(F/S)により得られる8つのアウトプットを一つずつ見てきています。今号では、3つ目のアウトプット:オペレーション分析から見ていきましょう。


1. アウトプット3:オペレーション体制を分析する


 F/Sでは、進出する国で製品やサービスを提供するにあたって、例えば購買物流からサービスまでといった各段階でのオペレーション体制を分析します。具体的な作業としては、①想定しているオペレーションモデルを実現する上で問題がないことの検証、と②財務分析を行う上でコストを算出できるレベルにオペレーションモデルを細分化することの二つを行います1)

(1)  オペレーションモデルの検証

 プロジェクト活動のどの部分を「誰が」、「どこで」担うのかが論点となります。特に現地での機能を社内・社外いずれのリソースが担うのかを検証しなければなりません。そのためには、現地の外部業者、委託先などの存在有無や彼らの能力を確認し、任せうるか否かの判断を求められます。

 確認方法としては、間接的に①同業他社、類似企業へのヒアリング、②業界団体など非営利団体への問い合わせ、③調査委会社、会計事務所などへの相談、あるいは直接に④外部業者、委託先への問い合わせなど様々ありますが、本格的な調査には④が望ましいです。ただし、無数にある業者一つ一つと面談することは非効率でもありますので、まずは質問票を作成して情報を集める方法をとります。

 質問票への協力依頼にあたってのファーストコンタクトには、メールよりも電話で行ったほうがこちらの意図を伝えやすく、また信頼も得られるでしょう。

(2)  オペレーションモデルの細分化

 F/Sの8つのアウトプットの最後にある財務分析では、収益性を評価するためにオペレーションにかかるコストを見積もらなければなりません。それにはまず、オペレーション上の機能を「自社で持つもの」と「外部に委託するもの」に大別し、それらをさらに費用を見積もれるレベルにまで細分化していきます。

 「外部に委託する機能」については、ウェブサイトからの費用情報の入手や簡単な問い合わせにより取得できますが、上記の質問票を送る際に質問項目に「作業費用」を加えておくのも良いでしょう。




2. アウトプット4:提携や買収の可能性を探る


 近年、本邦中小企業がM&A (Merger and Acquisition)を利用して海外進出するケースが増えてきているといいます2)。それは、①時間を買うことができる、②新たに許認可を取る必要のないケースが多い、③(初期)費用の固定化が可能、といったメリットがあるためです3)

 F/Sでは、提携先や買収先の候補の有無を確認します。進出先企業と協働する形態には、①買収、②提携、③合弁(ジョイントベンチャー)の3つがありますが、どのような形をとるかは相手との交渉次第ですので、F/Sの段階では想定までで良いでしょう。ただ、買収を想定する場合には「買収価格」を概算レベルで調査します。財務分析での評価に大きく影響する可能性があるからです。

 提携先や買収先などの検討方法としては、段階的に取り組むこととなりますが、まずは現地にある業界団体や協会に問い合わせて候補となる「ロングリスト」を作成します。次に「ロングリスト」の企業について、主要事業、企業規模などの基本的な情報を調べます。これに対して、選好条件と照らして評価し、「ショートリスト」へ絞り込んでいきます。F/Sの段階で「ショートリスト」の企業と話してみることも良いですが、将来に競合関係になる可能性もあることを念頭に慎重に行うこととなるのは勿論のことです。

 今年一年、本ビジネスコラムを読んで頂きましてありがとうございました。

 次号は来年となります。引き続きフィージビリティスタディ(F/S)から得られるアウトプットを見ていきます。




1) 「海外進出のためのフィージビリティスタディ」芳野剛史著(2015)を基に筆者が作成.

2) 「今がアツい!?海外M&Aのメリットを3点ピックアップしてご紹介!」、M&A Bank https://ma-bank.jp/column/ma_merit_abroad/

3) 中小企業庁資料 (http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_6_2_2.html)

中小企業のM&A仲介を手掛ける東証一部上場の3社((株)日本M&Aセンター、(株)ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ(株))の成約組数によると、中小企業のM&A成約件数は、2012年に比べて2017年では3倍超の526件となっている。


中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。