中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇7)

 前号までフィージビリティスタディ(F/S)により得られる8つのアウトプットの6つ目までを見てきました。今号では、最後となります7つ目、8つ目のアウトプットを見ていきます。


1. アウトプット7:中南米進出のマスタープランを作成する

 

 マスタープランでは、①設立準備までの実行計画(設立準備計画)と②事業開始後3~5年の中期計画(事業運営計画)を作成します1)


(1) 設立準備までの実行計画(設立準備計画)

 設立準備とは、具体的には2018年6月21日に公開しました「中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(前篇1)」中の「企業の海外進出の流れ、設立段階」に示した”交渉・契約、法人設立、店舗・工場建設”が該当します。これらを少しブレークダウンすると、現地での事業許認可の取得、外部業者の選定・契約、従業員の雇用、現地法人なら会社規定の作成、土地の確保などが(業種にもよりますが)挙げられ、それらの作業項目をリストアップしてその順番や作業日数を検討します。

 実行計画で重要なことは、①事業開始までにかかる設立準備コストの概算、②設立準備に要する時間から逆算される事業開始時期の設定です。これらは詳細に積み上げる必要はなく、現実的かつ小さ過ぎないぐらいの見積もりと考えてよいでしょう。


(2) 事業開始後3~5年の中期計画(事業運営計画)

 中期計画では、財務への影響が大きい事業拡大や追加投資などを計画し、財務分析での採算性の検討に盛り込みます。

 事業拡大としては、①地域、②製品・サービス、③チャネルの3つに大別されます。地域については、例えばペルー国で事業が軌道に乗ったところで、近隣のチリやコロンビアなどへの展開を進めるなど、この時点で大まかな計画:水平展開のタイミングがあって良いと考えます。追加投資については、なかなか予測が難しいところもありますが、工場の増設、新店舗の展開、宣伝広告などが考えられます。

2. アウトプット8:最後に財務分析で採算性を評価する


(1) 売上高の見積もりとコストの予測

 フィージビリティスタディの最終的なアウトプットとして、「その事業が儲かるのか」という問いへの結論を出さなければなりません。これまでに見てきた7つのアウトプットは、最後にはこの財務分析に活かされる基礎データとなるのです。

 財務分析には回収期間法など様々ありますが、事業開始後の各年(あるいは各年度)で売上高と利益を予測することの方が分かりやすいと考えられます。その予測方法ですが、既存事業で1年程度ならば、受注契約や受注確度などから積み上げることが可能ですが、海外で新たな事業を行うとなると、これまでのフィージビリティスタディのアウトプットを使って売上を見積もることになります。売上の見積もりで最も基本的な方法は、

  売上高 = 「進出地域の市場規模」×「想定獲得シェア」

と考えて求めることです。

ここで、「進出地域の市場規模」は「アウトプット①:市場環境分析」、「想定獲得シェア」は「アウトプット②:競合環境分析」において把握しているものを用います。

 コストは、①事業開始までにかかる「イニシャルコスト」と②運営段階での「ランニングコスト」からなります。「イニシャルコスト」は作成されたマスタープランでの概算の設立準備コストを用い、「ランニングコスト」はアウトプット⑥の人員計画やマスタープランの中期計画から算出します。


(2) リスクを踏まえた将来予測

 日本をはじめとした事業の現場で活躍される皆様には、将来の売上高を見積もることは難しい、前提に不確定要素もあるし、アクシデントも多々あるから予測は経験的に難しいだろうとお考えになる向きもあることと存じます。しかし、フィージビリティスタディは「事業企画案という初期仮説について、、実現可能性を検証する作業である」ということを今一度リマインドさせてください。そこには「リスク」すなわち発生する確率が高く、かつ大きく変動する可能性のあるものが存在しますので、楽観や悲観またその中間の複数のシナリオから検討するのが現実的と考えます。

 幅を持たせたシナリオの中で事業を評価することになるわけですが、それ故に「答えるべきイシューをもらさないアプローチ」(「中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇2)」参照)が重要となります。



 今号を読んでいただきありがとうございました。昨年6月から前後編10回にわたり、別企画を挟みながら飛び飛びでフィージビリティスタディについて見てまいりました。F/Sは、手元にあるアイデアの是非を大きな投資に踏み出す前の早い段階で検討しようというものです。皆様も中南米進出のアイデアをお持ちであれば、迷うよりもリスクの小さいF/Sというアクションに足を踏む出されてはいかがでしょうか。ご支援致します。

 次号では、また別の切り口から中南米進出について皆様と見て参りたく考えております。




1) 「海外進出のためのフィージビリティスタディ」芳野剛史著(2015)を基に筆者が作成.

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム,新大橋総合研究所

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。