本邦企業のパナマ進出のための出張に行きました

パナマ運河を太平洋側から東方へ望む


 しばらく本ビジネスコラムをご無沙汰しておりました。弊社はある中小企業様のパナマ進出をお手伝いしており、少し前のことになるのですが、今年9月には現地調査でパナマ国へ行きました。今号では、その出張の際に見聞したこと、考えたことなどをご紹介します。


1. アメリカ大陸で最大のコロン保税区


 パナマ空港に到着した翌日、アメリカ大陸で最大にして、香港に次いで世界で最も大規模な免税地帯の一つであるコロン保税区1)に行ってみました。コロン保税区は、パナマ運河のカリブ海側閘門の近くに免税地帯として1948年に設立されたものです1)。訪れた日は生憎日曜日だったので、区域内の活動はほとんどありませんでした。しかし、それを差し引いても、驚くほどの規模や設備とまではいかない印象でした。

保税区の外、コロン市街は中米一危険な都市と言われているそうです2)。確かに街の裏通りなど、車で通っても少し不気味な雰囲気がありましたが、基本的に車で通行したり表通りを昼間に歩く程度なら危険は小さいのでは、と思います。「中米一危険な都市」というものの、ホンジュラスのサン・ペドロ・スーラやグアテマラのグアテマラシティなども劣らず危険といわれ、「一番」というのはいささか大袈裟な気もします。いずれにしろ、海外からのコロン保税区のイメージを悪くしないためにも、コロンの下町の治安改善は大きな課題と考えます。


コロン保税区とクリストバル港コンテナ・ターミナル



コロン保税区内の倉庫街


2. 岐路に立たされるパナマ運河


 パナマといえばパナマ運河。この運河は世界の海上貿易の3%を担い、運河運営で得られる収益はパナマ政府の歳入の約8分の1を占めるそうです3)。パナマ運河は海抜26メートルの水位を有するガツン湖(人造湖)を通過し、3つの閘門を操作するのに湖水を消費します。

 湖水は閘門操作のためだけでなく、首都パナマ市をはじめとする住民の生活用水や水力発電、農業などにも利用されており、その需要量は増加し続けています。さらに、近年は乾季の干ばつが頻発し、ガツン湖の水位低下が顕在化しています。そのため、パナマ運河を通行する船舶に喫水確保のための積載制限を課すなど、従量制の通行料収益に悪影響を及ぼしています。パナマ運河では近年の船舶大型化に対応すべく、閘門幅を拡幅するなどの改修を行っていますが、拡幅した閘門では使用水量も多くなります。そのため、対策として、①生活用水を他の地域で開発、②他地域からガツン湖への導水、③水力発電を停止など、パナマ運河の運営を優先する施策の検討を行っているところです。

 一方、従来は氷に覆われていた北極圏を通る北西航路が通航可能になるかもしれず、そうなれば中国の上海から米国のニューヨーク間の航行距離は、パナマ運河を経由した場合の1万9500キロメートルよりも4000キロメートル短くなるといいます3)。また、米大陸横断鉄道を利用する動きなどもあり、パナマ国はこれまでの地位を確保することに国を挙げた対応を求められているのです。



出典:「パナマ運河、気候変動で危機(The Economist)」日本経済新聞、2019年9月23日



観光化されたパナマ運河(1)



観光化されたパナマ運河(2)




パナマ運河に繋がるガツン湖を曳航されるコンテナ船


 日本人のほとんどがパナマ運河のことを「知っている」と思いますが、その仕組みや現在抱えている課題はあまり知られていないのではないでしょうか。筆者もこの出張の機会にパナマ運河のことをいろいろと調べることができました。少し違う話になるのですが、地中海貿易で栄華を誇ったイタリアのベネツィア共和国の歴史を思い出しました。同国はやがて大航海時代にはその独占的な権益を失い、衰退していきます。パナマ運河の独占的ともいえる地位をどれだけ延命できるのか、現地ではその取り組みが行われており、今回の出張もそれに関係するものでありました。

 今号も読んでいただきましてありがとうございました。


1) 在日本パナマ大使館ホームページ、

http://www.embassyofpanamainjapan.org/jp/economy/trade/colonfree/

2) Wikipedia, コロン(パナマ)、https://ja.wikipedia.org/wiki/コロン_(パナマ)

3) 「パナマ運河、気候変動で危機(The Economist)」日本経済新聞、2019年9月23日

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50102740S9A920C1TCR000/

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。