日本の「インフラ輸出」戦略と中国の「一帯一路」構想が中南米へもたらすもの(その3)

 今号では、ペルー出張のご紹介で今年5月以来中断していた、表題の日中によるインフラ開発支援について、その政策が中南米諸国へもたらすものや、われわれがどのように活用または影響を受けるのかを見ていきます。


1. 「一帯一路」構想による中国の中南米展開


 文献1)によりますと、「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)とは、「共に計画を」(Planning together)、「共に構築を」(Building together)、「共に分かち合いを」(Sharing together)の三本の柱に基づいて、政策、インフラ、貿易、財政、人の交流における5 つの「連結性」(connectivity)を創造することで、双方に有利な「ウイン・ウイン」の協力体制を樹立し、人類のための共有社会を構築することを目指すものとあります。2013 年9 月に就任して間もない習近平国家主席が中国から西方へ延びる経済圏構想として提唱し、これを逆方向の中南米地域でも展開する積極的な外交が行われています。

 また、米国トランプ政権のラテンアメリカ・カリブ(LAC)諸国への関心低下の間隙をついて、中国は同諸国の港湾施設をはじめとしたインフラ事業への投資を進めています。それは近いうちに中国がこれまで東南アジアやアフリカで展開してきたインフラ事業の規模を上回るほどの勢いであるとして、米国議会では警戒を強めています。もっとも、この動きは近年に始まったことではなく、2005 年以来、中国はLAC に対して約1500 億ドルの投資・融資を政府間で行ってきた実績があり、それらプロジェクトが「一帯一路」構想の性格を既に持ち合わせいるともいえます。


2. 「一帯一路」構想の下でのインフラ事業


 「一帯一路」構想の下での具体的なインフラ事業は、中南米地域に限定しても相当な数になるのですが、文献1)を基に敢えて以下に主なものを列挙してみました。


「一帯一路」構想の下でのインフラ事業


 この表に挙げたものがすべてではないのですが、この表からは支援対象に港湾施設を中心とした交通インフラを重視していることが見て取れます。また、CHEC社という港湾に特化した建設会社の参加が際立っています。これには、親会社の中国交通建設股份有限公司(China Communications Construction Company:CCCC)が、フィリピンでの道路事業に関連した詐欺疑惑により、世界銀行が融資するプロジェクトへの参加を長年にわたって禁止されたことが背景にあるともいわれます1)。

 その一方で、「一帯一路」構想の下でのインフラ事業には、以下のような批判が多く、マスコミで頻繁に取り上げられています。

① 環境問題: 自然・社会環境への破壊的な影響や環境影響評価の欠如

② 労働問題: 高度人材から労働者まで中国から連れてくるため、事業が対象国・地域の雇用創出につながらない

③ 負債問題: 世界銀行など他援助機関に比して返済金利や期間が不利な条件が多い

④ 事業の遅延: ニカラグア運河、南米横断鉄道など、壮大な構想の事業が進んでいない

⑤ 品質問題: 供与された機械の故障、整備された道路の舗装がすぐに傷んでしまうなど、事業の品質の低さから効果の持続性が不十分

⑥ 情報統制: 国民を監視するシステムの導入が民主制への脅威


 上記①~⑤について、日本のインフラは比較優位性があるので、ここを強みとして我が国のインフラシステム輸出は推進されています。その方針は正しいと思いますが、途上国では初期投資に注目される傾向がより強いため、被援助国にはライフサイクルコストなどの視点から総合的な比較検討を行うことの重要性を理解してもらう取り組みが必要となります。


3.  日本の中小企業にとっての活用の路


 日本や米国からの視点では、中国の「一帯一路」構想への警戒感が前面にくる報道や、中国のパフォーマンスを「安かろう、悪かろう」とするイメージがあふれているように思われます。しかし、中国企業はビジネスのためにはパフォーマンスの課題は克服していくのではないでしょうか。

 中南米地域のインフラ整備の遅れは我々日本の企業にとってもビジネス上の障害であり、その推進には中国資本による投資も重要となります。「規模負けしている中国と正面から戦うよりも、中国人や台湾人と組むというのも一つのスキームでは」とする提案もあります2)

 本ビジネスコラムの2017年10月21日第8号でも述べさせていただきましたが、例えばコンセッションで中南米に根を張ってビジネスを展開しているスペイン系企業や、「一帯一路」構想を背景として進出を果たしている中国企業と協働する、という選択肢にも積極的に取り組むことが長い目で見れば利益につながると私は考えています。

 今号も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。次号ではまた新しいテーマを取り挙げさせていただきます。



1) 「『ラテンアメリカ・カリブ研究所レポート』「一帯一路」構想:ラテンアメリカにおける課題」、桑山幹夫、工藤章、2019年3月

2) 「「中国語」が名刺代わりの外交戦略、-ラテンアメリカにおける中国の影響力-」、ラテンアメリカ時報 2019年夏号、2019年7月


中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。