TPPの現状 – 米国離脱表明の衝撃とその後の動き

1. TPPの進捗と現況

 環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership: TPP)は、メキシコ、ペルー、チリの中南米3カ国を含む12カ国で交渉され、2015年10月5日に大筋合意されました。しかし、米国のトランプ大統領が大統領選挙の公約の一つとしてTPP離脱を掲げ、2017年1月23日にはTPP離脱の大統領令に署名したことは周知のとおりです。2017年5月21日、ハノイ市にて米国を除くTPP参加11カ国は閣僚会合を開き、「TPPのバランスのとれた成果や戦略的・経済的意義を再確認し、原署名国の参加を促進する方策も含めた、包括的で質の高い協定の早期発効のための選択肢を評価するプロセスを開始する」として、離脱した米国の復帰を促す方策も含めて、協定発効に向けた検討を始めることで合意したとの声明を発表しています。そのうえで各国の閣僚は、2017年11月にベトナムで開催されるアジア太平洋経済協力(Asia-Pacific Economic Cooperation: APEC)の首脳会議に合わせて開かれるTPP担当の閣僚会合前にこの検討作業を終えるよう、各国の首席交渉官ら貿易担当の政府高官に指示したとしています1) 。一方、米国は11カ国でのTPP発効を目指す議論を妨げる考えのないことを表明しています。




2. TPP参加国中約60%のGDPを占める米国の撤退、今後どうなるTPP?

 

 TPPが今後、どのような展開になるのか、専門家の間でも予測しがたいようで、可能性のある展開として予測されるのは、まず、①11カ国での発効、②米国の離脱は、いわゆる”No, but~”の交渉プロセスに過ぎず、復帰も視野にある、大胆な予測としては、③将来的なトランプ政権の交代による米国の方針転換、などでしょうか。いずれにしても、発効までに長期間を要するように予測されます。なぜなら、単に米国抜きで発効しようにも、離脱の影響が大きいため、各国の修正判断が容易ではないからです。ほんの1年ほど前までは、「TPPの発効によりNAFTA 2) サプライチェーンとアジア諸国および中南米地域の経済的融合が起こる可能性」に期待が膨らんでいました。最近の動向からは、そのようなTPPへの期待が流動的になっている印象です。しかし、米国の貿易政策の動向に関わらず、中南米諸国は米国以外の日本をはじめとしたアジア諸国との貿易関係の強化に乗り出すことになるでしょう。実際、メキシコやブラジルは、2017年1月にその意向を表明しています。

 TPPでどのような恩恵や変化があるかといいますと、まず関税撤廃が更に深化します。例えば、チリは食品業界で特恵待遇を受けることとなり、特に日本、マレーシア、ベトナム、カナダなどの市場での貿易を促進することになります3)。日本ではワインの関税が低減され、現在は価格の15%か1リットル当たり1,250円のいずれか低い方が課税されていましたが、8年目には撤廃されます。特に価格に占める関税の比率が高い安価なワインで更なる値下げの余地が出てきます。日本のワイン輸入量は2014年まではフランスが一位でチリがそれに次いでいましたが、2015年以降はチリが一位となり、TPPにより更に差が開くものと見られます4)

 メキシコは現在輸出の約8割、輸入の約半分を米国が占めていますが、NAFTA見直しの圧力が強まる中、アジア太平洋諸国との貿易・投資関係の強化が必至です。TPPはメキシコの中南米地域での主要貿易国であるチリ、ペルーとの特恵アクセスをより確かなものとするとともに、日本市場へのアクセスを深化する役割を果たします。日系企業のメキシコへの投資は順調に伸びてきており、特に自動車産業が活発化していますが、航空、医療分野でも貿易・投資関係の強化が期待されています。

 筆者が特に注目しているのは、TPPが「21世紀にふさわしいFTA 5)」といわれる所以となる「サービス貿易の自由化」があることです。特に建設サービス及びエンジニアリングを含むプロフェッショナルサービスの自由化が進みます。これについては、いずれもう少し詳しい特集を組みたいと思います。


 次号第5号では、日本と中南米諸国が関係する経済・貿易協定の現状についてみていきます。



1) NHK NEWS WEB, https://www3.nhk.or.jp/news/imasaratpp/article15.html

2) 北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement: NAFTA)は,米国,カナダ,メキシコによって署名され,北アメリカにおいて3か国による貿易圏を生み出した自由貿易協定である.ウィキペディア(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E7%B1%B3%E8%87%AA%E7%94%B1%E8%B2%BF%E6%98%93%E5%8D%94%E5%AE%9A

3) Chile, Direcon (2015a), DIRECON se reúne con empresarios de distintos sectores para explicar los alcances del TPPexplicar los alcances del TPP ”el el el 16 de octubre.

(https://www.direcon.gob.cl/2015/10/direcon-se-reune-con-empresarios-de-distintos-sectores-para-explicar-los-alcances-del-tpp/)

4) 輸入金額では,2016年実績でフランス一位(85,480百万円),チリ二位(21,376百万円).(財務省貿易統計資料より)

 5) 自由貿易協定(Free Trade Agreement: FTA)のこと.2カ国以上の国・地域が関税、輸入割当など貿易制限的な措置を一定の期間内に撤廃・削減する協定. 締結国・地域間の自由貿易および投資拡大を目的として関税/非関税障壁を取り払う.(ウィキペディアより)

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム,新大橋総合研究所

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。