中南米地域でのインフラ需要の現状(その2)

1. インフラ投資への原資をどこから持ってくるのか?


 前号では、世界のインフラ需要の規模とその中でも中南米のインフラ整備はまだまだ途上にあることをお話ししました。「中南米諸国間における域内取引は低調な状況」とし、その要因を国境地域の地勢的な厳しさと陸上交通インフラの整備が難しいことと指摘する文献があります1)。中南米地域においては、インフラ投資・整備の遅滞が経済活動にブレーキをかけつつあるため、これを促進することは急務です。

 その解決策として挙がる意見の多くが、インフラへの投資額を増やせばよいという、ある意味、単純明快なものです。中南米地域でのGDPに占めるインフラ投資の割合は2.8%であり、これはサブサハラ地域の1.9%に次ぐ世界2番目の低さです2)。東アジア・太平洋地域ではGDPの7.7%を投じています。「中南米地域でのGDPに占めるインフラ投資の割合は2.8%」といいますが、それはブラジル、メキシコ、ペルーなどの中南米における大国が4%以上を投じていることで、地域の平均を押し上げていることも指摘されています。

 インフラ投資を必要とする多くの途上国では公共投資の前提となる財政基盤は脆弱であり、政府予算による公共投資は十分とは言えない状況です2)。また、公共投資を支援するためのODAや国際金融機関による支援によっても需要のすべてを賄うことは難しいでしょう。民間資金を積極的に活用するため、官民パートナーシップ(Public-Private Partnership:PPP)の手法によりインフラ整備を行うケースも増加していますが、制度の未整備やインフラを導入する途上国政府の能力不足の結果、官民の適切なリスク分担が行われない等の理由により、PPP手法の活用は限定的となっていると指摘されます3)。今後は、i) 途上国政府自身がインフラ投資への財源を確保していくことと、ii) 途上国における関連制度の整備や政府担当者の能力強化を通じて民間資金の活用を拡大させていくことが求められます。インフラ投資への回収期間が長いことに耐えられる資金提供者として、政府系ファンド(Sovereign Wealth Fund: SWF)の活用も世界的に注目されてきていますが、中南米地域ではチリやベネズエラにあるのみで、その規模も比較的小さいのが現状です4)。




2. 中南米地域でのインフラ整備促進にあたっての様々な障壁


 単に投資額を増やすことができればインフラ整備が進み、ビジネス環境が改善されるという訳ではなく様々な障壁があります。一つには、インフラ整備の実施体制が効率的でないことが挙げられます。例えば、中南米諸国の会計年度の多くは1月から12月までですが、多くの国々では予算を次年度に繰り越すことができません。それは乾季を11月から3月までに持つ多くの中南米諸国では非効率極まりない制度であり、インフラ整備の速度を下げる一因となっています2)。さらには、交通インフラの整備は輸送所要時間を短縮して輸送コストを下げる効果を期待されて当然ですが、例えばコロンビアではトラック組合による強い圧力や協定価格があり、政府の意図通りの運賃体系を実現できず運賃が高止まりしている状況も見られます5)。

 我々にとって気になる日系企業のインフラ整備プロジェクトへの参入機会についても、様々な障壁が指摘されます。一つは、ブラジルやペルーなどでは、資金調達時の借入金利が高いためリスクを伴うというものです6)。また、文献6)の指摘するブラジルにおける日系企業の苦戦要因を一部抜粋すると、①公共調達では汎用性の高い技術仕様が採用されがちであり、日系企業の比較優位性を示せずに価格競争で現地企業や中国など他の外資系企業に負けてしまう、②政府機関が契約条件を精査せず、民間への過大なリスクを配分、③数十年という長期にわたるコンセッション契約7)やPPP案件などの大型案件を実施するための現地パートナーとの関係構築や社内合意形成に時間を要すること、などが挙げられています。


 今号も読んで頂きありがとうございます。インフラの需給ギャップ問題は複雑であり、議論は尽きないところです。次号では、この巨大な需要と障壁を前にした取り組みのアプローチを考えてみたいです。



1) 「平成25年度 アジア産業基盤強化等事業(中南米市場獲得における基礎的調査) 報告書」、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社、2014年2月

2) 「Rethinking Infrastructure in Latin America and the Caribbean, Spending Better to Achieve More」, The World Bank, 2017.

3) 「通産白書2016」、経済産業省、2016年.

4) 「台頭するSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)」、大和総研企業財務戦略部 柏崎重人、2007年.

5) 「コロンビア・ペルー 物流インフラ情報収集・確認調査 ファイナルレポート」、JICA、2014年9月.

6) 「ブラジルのインフラマーケットと日系企業の戦略」、デロイトトーマツ 谷田部雅史、2015年.

7) コンセッション契約: 公的機関が公共施設の所有権を保持したまま、施設の運営権のみを民間に与える事業形態の契約。「公共施設等運営権制度(コンセッション)について」、JACIC情報115号より。

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム,新大橋総合研究所

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。