ジェトロ調査にみる日系企業の中南米への進出の現況(その3)

1. 中南米へ進出した日系企業が直面する経営上の問題点


 前号、前々号では、JETROが今年1月に公表した「2017年度 中南米進出日系企業実態調査 調査結果」1)からみた進出企業の現況と今後の展望を見てきました。中南米へ進出した日系企業は、業況について2017年の実況および2018年の予測ともにかなり好ましいと回答しています。また、「成長性、潜在力の高さ」を背景として、今後1,2年間の事業展開を「拡大」とする方針が回答の約6割を占めていました。他方、直面する経営上の問題点としてはどのような事項が挙げられているでしょうか。

 まず貿易制度面の問題点への回答を概観すると、いささか大味な切り口になってしまいますが、経済協定ごとで二極化しています。すなわち、太平洋同盟への加盟国メキシコ、ペルー、コロンビア、チリでは、「特に問題がない」との回答の比率が相対的に高く、特にチリで約7割、ペルーで約5割の回答がそのようになっています。その一方、メルコスール加盟国のブラジル、アルゼンチンでは、「通関等諸手続きが煩雑」との回答がそれぞれ約6割、約7割と比率が高いです。また、これら二カ国では、「通関に時間を要する」、「輸入関税が高い」などの回答も多く、財の輸入に関する問題が挙げられています。

 生産面の問題としては、これまでのコラムのインフラ需要でも取り上げましたが2)、コロンビアでは「物流インフラの未整備」の比率が36.4%と最も高いです。ブラジル、アルゼンチンでは、「限界に近づきつつあるコスト削減」がそれぞれ37.5%、42.9%、「調達コストの上昇」がそれぞれ52.1%、64.3%と比率が高く、コストの問題を指摘する回答が多いです。


2. 国ごとに見た投資環境のメリットとリスク


 下の表は、投資環境におけるメリットとリスクについての回答を国別にまとめたものです。メリットについての回答は何かはぐらかされている印象が否めないのですが、リスクはこれからの進出を検討している企業様にとっては参考となると考えます。

 そこでリスクに注目してみましょう。メキシコでは殺傷害、誘拐、強盗・盗難、詐欺などの「外国人、企業を対象とした犯罪」(53.3%)の回答が最も多いです。このような犯罪は外国人のみを対象としている訳ではないのは勿論なのですが、日系企業の進出が盛んなグアナファト州などでの治安悪化が拡がっているとみられます。また、ローカルのテレビを付けると、犯罪の生々しい映像ニュースが頻繁に流れますので不安を掻き立てるものがあるのではないでしょうか。中南米あるいは海外は、日本より比較的治安が悪いという常識の下、特に外出中は常に油断せず、また深夜に屋外に出歩かない、貴重品の管理に気を付けるなど、普通のことをしていればリスクはかなり下げられると筆者の経験上言えると思います。中南米へ進出するにあたって、油断は禁物ですが過度な不安は持たなくても良いでしょう。ペルーでは、政権を左右するような汚職の発生などから「不安定な政治・社会情勢」(52.6%)が前年比で倍増していますが、リスクとして一番多い回答は「許認可などの煩雑な行政手続き」(63.2%)です。チリ、ブラジル、アルゼンチンでは、「人件費の高騰」が挙げられています。政治・社会情勢が著しく不安定なベネズエラでは、投資環境にメリットを見出せないとの回答が多く、挙げられるリスクは多岐にわたっています。


 今号も読んで頂きました有難うございます。この調査結果は、現況や翌年の予想など、短期的な視野の情報で、中長期的な捉え方はまた別にあると考えますが、これから進出を検討される企業様にとっては、中南米のビジネス環境を概観する上で貴重な情報ではないでしょうか。

 ところで、中南米主要国のビジネス環境がアジアの途上国より優れる背景は、「中南米のアメリカナイズ」にあるのでしょうか。私は2018年3月から4月にかけて米国アリゾナ州のフェニックス市を訪れ、ここで「アメリカナイズ」の意味するところを考えていました。次号では、このあたりについて論考してみたいと考えています。



1) 「2017年度 中南米進出日系企業実態調査 調査結果」日本貿易振興機構海外調査部米州課、2018年1月.

2) 中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム  「中南米地域でのインフラ需要の現状(その1)」、2017年10月7日 第6号 (https://lac-japan.amebaownd.com/posts/3057264?categoryIds=786702)

中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。