日本の「インフラ輸出」戦略と中国の「一帯一路」構想が中南米へもたらすもの(その1)

1. はじめに


 2017年10月7日の本ビジネスコラム第6号「中南米地域でのインフラ需要の現状(その1)」で少し触れたのですが、新興国を中心とした世界のインフラ投資需要は膨大であり、これらインフラ投資・整備が滞ると経済活動にブレーキをかける要因となります。そのため急速な発展を遂げつつある新興国のみだけでなく、発展途上国の多くは都市化・人口増への対応やグローバル経済への参加のためには、インフラへの投資・整備を急ぐ必要があります。

 日本は成長戦略・国際展開戦略の一環として、「「強みのある技術・ノウハウ」を最大限に活かし、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むことにより、我が国の力強い経済成長につなげていくこと」を掲げています1)。これには少子高齢化などによる国内インフラ投資市場の縮小も背景にあります2)

 他方、中国では2013 年9 月に就任して間もない習近平国家主席が、中国から欧州につながる陸域の輸送回廊を経済圏とする「シルクロード経済ベルト」構想:「一帯」と、インドネシアを含む「21 世紀海上のシルクロード」構想:「一路」を提唱し、これまでに関係国の運輸インフラ開発に多額を投じてきました3)。この二つを合わせて「一帯一路」構想と呼ばれるようになったのはご存知のとおりです。「一帯一路」構想は、中国から西方へ延びる経済圏構想ですが、これを逆方向の中南米地域でも展開する積極的な外交が行われています。

 今号から数号にわたり、日中両国のこれらの海外進出政策が中南米諸国へもたらすものや、われわれがどのように活用または影響を受けるのかを見ていきます。


2. 「インフラ」のおさらい


 本コラムのなかで、これからいろいろな「インフラ」が出てくると思いますので、インフラについて簡単におさらいさせてください。インフラは鉄道、港湾などの運輸インフラや水資源、発電、上下水道、防災を含む生活インフラ、通信インフラを含む「①経済インフラ」と、学校や病院など公共施設の「②社会インフラ」の二つに大別されることが多いです。また、これらすべての構造物をハードインフラとし、それらを支える制度・基準、技術・運用ノウハウ、人材育成等をソフトインフラとする見方もあります4)。スマートフォンやウーバー、SNSなども今やインフラと呼んでも良いほど生活を支えていますが、今回のテーマでは含まないと考えていただいて良いでしょう。


3. なぜ、インフラ輸出を国が後押しするのか?


 上記の「インフラ」事業に直接のかかわりを持たないと思われている方々は、なぜ、インフラ輸出を国が後押しするのか?という疑問を持たれることもあろうかと思います。それについて日本政府は、①本邦企業の進出先国で物流や電力等の経済インフラを開発することが進出拠点整備やサプライチェーン強化につながり、現地の販売市場の獲得にも結びつくため、インフラ受注そのものに加えて、複合的な効果を生み出すこと、②持続可能な開発の実現及びその前提としての環境、防災、健康等の地球規模の課題解決に貢献することが、日本の外交的地位の向上にも貢献することの2点を理由に挙げています1)。また、インフラシステムの海外展開については、一義的には民間企業が主体的に取り組むことが重要であり、海外市場の特性を踏まえたグローバル戦略の策定、コスト競争力やマーケティングへの企業努力と強い意志が重要としつつも、国家間の苛烈な競争環境や先方政府の影響力の強さなどから国を挙げた取り組みが必要としています。

 このような外交や経済の国益を優先した国単位の取り組みは、政府開発援助(ODA)においても世界的には常識とも言え、以前の日本は世界の競争環境において、いささか「フェアー」過ぎた感もありました。


 今号も読んでいただきましてありがとうございました。今号は導入部分で終わってしまいましたが、次号からは日本政府の具体的な取り組みについて見ていきます。ちなみに、巻頭のイメージは、安倍首相がこれまでに訪問した中南米諸国の国旗で、10か国訪問されています5)。政府の新しい取り組みは、切り口を変えれば、これまでの「インフラ」事業に関連する企業にとってだけでなく、海外展開を企図する製造業を含む様々なセクターの企業様にとって有益な情報になると考えています。


1) 首相官邸ホームページ「インフラシステム輸出戦略(平成30 年度改訂版)」、平成30 年6月7日 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai37/siryou2.pdf

2) 「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画 2018」、平成30年3月

3) 「『ラテンアメリカ・カリブ研究所レポート』「一帯一路」構想:ラテンアメリカにおける課題」、桑山幹夫、工藤章、2019年3月

4) 「第35回 経協インフラ戦略会議(2018年2月27日) テーマ:ソフトインフラ」 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai35/siryou2.pdf

5) 首相官邸ホームページ「地球儀を俯瞰しながら体験できる外交の軌跡」 https://www.kantei.go.jp/jp/feature/gaikou/index.html


中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム,新大橋総合研究所

なぜ、今本邦企業が中南米地域に進出すべきなのか。そこは、33カ国の広範囲を領した人口約6億人、GDPは5.1兆ドル(2015年)とASEAN5の約2.5倍で、既に巨大な中間層市場を形成した魅力的な市場です。日本にとっての“地球の裏側”という物理的な距離の遠さを「利用」し、本邦中小企業がビジネスチャンスを生み出し進出するための支援を我々は行っています。