NAOKI YAMASHITA

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中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇6)

 前号までフィージビリティスタディ(F/S)により得られる8つのアウトプットの4つ目までを見てきました。今号では、5つ目のアウトプット:規制調査から見ていきましょう。1. アウトプット5:現地での規制を把握する(1)外資・業種の規制 F/Sの段階では、適用される法規制を網羅的に把握するのではなく、事業の「実施判断」に関わる、あるいは参入を制約する可能性のあるといった、ビジネスモデルに影響する規制の有無を確認することが重要となります1)。 現地でどのような規制(例えば外資や業種に対する規制)があるのか、これを把握するのは容易ではありませんが、まずは自分たちの理解のためにもJETRO、外務省、国内情報機関が提供するパブリック情報の確認から始めます。例えば、JETROではチリへ中古車を輸出する際の現地輸入規制について概説しています2)。また、我が国の外務省は、ほぼすべての在外公館に「日本企業支援窓口」を設置し、現地に駐在する日本企業支援担当官が個別企業からの相談・支援依頼などに対応しています3)。初動において、このようなサービスを活用し、必要に応じて専門家に相談するといった方針が良いでしょう。とりわけ業種規制のレベルになると、日本語のパブリック情報では不十分になるケースが多いようです。 専門家に相談する前にできることは他にもあります。それはすでに対象国へ参入している同業の外国企業について調べることです。既存プレーヤーがどのように外資規制に対応しているのか、例えば①業種をずらしての参入、②規制前に参入していた、③参入スキームに工夫を凝らしていた、などが見えてくる場合があります。(2)投資促進など優遇措置 投資促進など優遇措置で大きな恩恵を受ける場合、収益予測にプラスの影響が出てくるため、これも把握しておきましょう。外国企業からの投資を獲得したい産業分野に対しては、国が投資促進のための優遇措置を設けるケースがあります。また、地方自治体でも国とは別の優遇措置を提供している場合があるので、対象国で進出する地域まで決まっており、かつ地域経済や雇用に貢献できると考えられる事業であれば、積極的に自治体への面会を求めるとよいです。この際にも現地での協力者の存在が重要となってきます。

中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇5)

 前号からフィージビリティスタディ(F/S)により得られる8つのアウトプットを一つずつ見てきています。今号では、3つ目のアウトプット:オペレーション分析から見ていきましょう。1. アウトプット3:オペレーション体制を分析する F/Sでは、進出する国で製品やサービスを提供するにあたって、例えば購買物流からサービスまでといった各段階でのオペレーション体制を分析します。具体的な作業としては、①想定しているオペレーションモデルを実現する上で問題がないことの検証、と②財務分析を行う上でコストを算出できるレベルにオペレーションモデルを細分化することの二つを行います1)。(1)  オペレーションモデルの検証 プロジェクト活動のどの部分を「誰が」、「どこで」担うのかが論点となります。特に現地での機能を社内・社外いずれのリソースが担うのかを検証しなければなりません。そのためには、現地の外部業者、委託先などの存在有無や彼らの能力を確認し、任せうるか否かの判断を求められます。 確認方法としては、間接的に①同業他社、類似企業へのヒアリング、②業界団体など非営利団体への問い合わせ、③調査委会社、会計事務所などへの相談、あるいは直接に④外部業者、委託先への問い合わせなど様々ありますが、本格的な調査には④が望ましいです。ただし、無数にある業者一つ一つと面談することは非効率でもありますので、まずは質問票を作成して情報を集める方法をとります。 質問票への協力依頼にあたってのファーストコンタクトには、メールよりも電話で行ったほうがこちらの意図を伝えやすく、また信頼も得られるでしょう。(2)  オペレーションモデルの細分化 F/Sの8つのアウトプットの最後にある財務分析では、収益性を評価するためにオペレーションにかかるコストを見積もらなければなりません。それにはまず、オペレーション上の機能を「自社で持つもの」と「外部に委託するもの」に大別し、それらをさらに費用を見積もれるレベルにまで細分化していきます。 「外部に委託する機能」については、ウェブサイトからの費用情報の入手や簡単な問い合わせにより取得できますが、上記の質問票を送る際に質問項目に「作業費用」を加えておくのも良いでしょう。

中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇4)

 先週、日本の中小機構様が主催するあるイベントに参加してきました。その中のトークセッションの一つ「日本在住の外国人に直接聞く、海外消費者の日本商品の見方」の内容は、ある意味収穫のあるイベントでした。それは、パネラーに「日本在住の外国人」としてイギリス、スペイン、インドネシア、米国出身の方々が登壇し、司会者と対談する形式でした。司会者は「外国人に人気のある日本商品」として、すし飴、忍者傘、九谷焼、弁当箱など価格を付けたスライドを示しながら、パネラーの関心を問うのですが、ことごとく興味を示されません。この4人が「外国人」を代表するわけではないことは勿論ですが、企画、人選が悪かったのか、それとも事前打ち合わせが不足していたのか、おそらく司会者や多くの聴講者の期待した展開ではなかったように考えます。司会者の意図は分からないのですが、海外消費者の需要とは「日本的な商品」ではなく、需要を満たす「優れた商品」であるのが基本であり、感性に訴える商品の販売についてはブランディングや雰囲気づくりが大切になるのでは、と考えた次第です。 冒頭から余談が長くなりましたが、今号からはフィージビリティスタディ(F/S)から得られる8つのアウトプットを一つずつ見ていきます。なお、F/Sでは、検証すべき「特定」の重要事項(イシュー)への明確な回答が重要であり、全体の検討項目を網羅すれば良いわけではありません。検討すべきイシューを明確にすることで作業を効率化し、また本当に重要な事項を抽出することが重要であることを念頭に各論を読んでいただければと思います。1. アウトプット1:市場環境を把握する 市場環境を把握するにあたって、その進出対象となる中南米の国全体あるいは複数の国々を対象としたマクロ環境と、参入する「業界」でのミクロ環境を分けて分析します。マクロ環境とは、自然環境や社会経済状況など対象国の基本的な情報のことで、特定の事業を検討する前提ともいえます。気候や宗教などの文化は広範にわたりますが、まずは全般的な情報を整理し、必要に応じて掘り下げるアプローチが良いでしょう。 そして本題はミクロ環境の把握になるのですが、まず対象国での「市場規模」と「成長性」から「市場の魅力度」を明らかにすることが重要となります。まずは、インターネットや出版物などのパブリックデータを調べることになりますが、それらが乏しい場合、アンケート調査などによる一次データの取得が必要となり、新規参入の多くの場合この作業は必要と考えるべきです。これには当然コストがかかりますが、競合他社が持たない有用なデータ:「差別化の材料」となりえますので前向きに検討しましょう。 また、政治的要因による業界への影響の可能性についても概略でも検討しておいた方が良いです。例えば、ベネズエラなど政情不安がビジネス環境を貶めている国がある一方、内戦が収束して治安が安定に向かっているコロンビアなど、業界への好悪の影響を視野に入れておくべきです。

BRICSが見せる地力! ビジネス環境2019発表される

 前号まで3回続けて中南米進出に向けたフィージビリティスタディの後篇をお送りしておりました。Breaking Newsといっては遅いですが、今号では去る10月31日に世界銀行が発表した「ビジネス環境の現状2019:改革を支える研修(Doing Business 2019: Training for Reform)」1)について取り上げます。1. 世界上位 ― 日本の相対的地位低下の継続と中国の躍進 まず世界の上位を見ていきます。1位は今回もニュージーランド、1位から5位までの国は昨年と変わらず、今回4位の香港と5位の韓国が入れ替わったのみで安定しています。前回35位のロシアは34位の日本を脅かす存在でしたが、今回遂に日本の上位に上がりました(今回のロシア:31位、日本:39位)。日本のスコアは前回に比べてわずかながら(+0.05ポイント)上がっているのですが、下位に位置していた多くの国々でのスコア向上はこれに上回っていますので、相対的にランクが下がっているのです。 そして、遂に前回78位だった中国が今回46位と躍進を遂げました。日本がこのまま改善のスピードを上げられないならば、1、2年のうちに中国にも追い越されることでしょう。それにしても、中国は今回の躍進でメキシコやチリなどの中南米上位国をごぼう抜きしました。今回、中国は21項目もの改善策が認められ、「最も改善が見られた上位10カ国」の一つに数えられています2)。その改善策とは、電力供給事情や越境貿易の環境に認められています。この面からも米国が警戒するのはもっともなことですね。

中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇3)

 前号ではF/Sでの作業内容(計画)について、①検証すべき「特定」の重要事項(イシュー)への明確な回答が重要であること、②イシューの検証には、「推論」と「掴み」が欠かせないこと、③情報収集の方法には緩急をつけること、を見てきました。イシューの検証方法を設定したら、それに取り組むための「全体の作業フロー」を組み立てます1)。今号では、全体の作業フローを組み立てることについて見ていきましょう。1. 作業を分解する イシューの検証に取り組むにあたって「全体の作業フロー」を組み立てます。作業の効率性を考慮すれば、作業の順番性も大切なので時系列の作業フローを着手前に作りましょう。 まず、作業分解図(Work Breakdown Structure: WBS)を作成します。これは、「重層的統計図」ともいわれ図で表すことが一般的ですが、私は報告書の目次のように縦に並べてイメージしています。私が通常使っている手法では、一番上のレベルの作業の大項目を「章」と捉え、そこにぶら下がる次のレベルの「節」、更に下の「項」といった形でブレークダウンしていきます。丁度イメージに近い資料があったので、下図にご紹介します2)。これにより、フィージビリティスタディに必要なすべての作業を「一つひとつの作業量が見積もれるレベルにまで」分割し、網羅していきます。

中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇2)

 海外へ視察旅行に出ていたこともあり、前号から一カ月空いてしまいました。今号ではF/Sでの作業内容(計画)を見ていきます。1. F/Sでは、検証すべき「特定」の重要事項(イシュー)への明確な回答が重要! 大事なことなので繰り返しますが、F/Sでは検証すべき「特定」の重要事項(イシュー)への明確な回答が重要です。F/Sでは、単に、または闇雲に検討項目全体を網羅すれば作業が終わるということではなく、重要な課題への回答を得る作業に注力すること重要です。そのためには、まず「答えるべきイシューをもらさないアプローチ」が必要であり、事業「特有」の課題、あるいは事業者「特有」の関心事を中心に考える必要があります1)。 F/Sを行うにも時間と費用に限りがあるため、イシューの優先順位づけをして検証範囲を的確に決めることが重要となります。判断に迷うものについては、インターネットの公開情報や記事などに幅広く目を通すことで、抽出に役立つ情報を得られることも多いでしょう。 そこで最も重要な基準となるのは、その事項が事業の実施判断にどれほどの影響を与えるかというものです。また、チーム内での納得感や合意形成を重視するなら、優先順位はあくまでも参考材料とし、話し合いで重要イシューを決めるという方法も有効でしょう。ただし、この方法には最終的な判断のリーダーシップが求められます。

中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇1)

 前号まで3回にわたってペルーの紹介をしてきました。今回から再び中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(Feasibility Study: F/S)を考えていくにあたって、以前のオサライを少しばかり。 このテーマは、芳野剛史氏が著した「海外進出のためのフィージビリティスタディ」中央経済社.(2015)を基に、筆者が特に重要と考えた箇所の引用を中心としてまとめています。この著書はとても読みやすく有意義な情報が満載ですので、詳しく知りたい方は購入をお勧めします。 企業が海外進出するときの段階は、計画、設立、運営の3つにより構成され、F/Sは、計画段階中の「事業企画案」と「詳細事業計画」の間に位置して事業実施の一次判断に用いられます。新たに海外進出する場合、市場や規制などをゼロから調べなければならず、情報収集も日本国内で行うものよりは困難な場合が多いです。そこで、「詳細事業計画」に着手する前にF/Sを実施してその検証結果が良ければ、次ステップとして「詳細事業計画」に入ればよいというわけです。1. 事業のビジネスとしての「実現可能性」を検証する調査 本コラムで取り上げるF/Sとは、事業のビジネスとしての「実現可能性」を検証する調査のことです。海外進出においてF/Sが必要となる主な理由には、下の図に示すとおり①初期投資が大きい、②ビジネススピードの重視、③外資規制・業種規制の影響、④市場環境・競合環境の特殊性の4点が挙げられます1)。以下、一つずつ見ていきましょう。

中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(前篇3)

1. 事業企画案で、役割分担や収益モデルを決める 前号に引き続き、海外進出に向けた事業企画案に盛り込む項目を概説していきます。下の図は、海外進出に向けた事業企画案に盛り込む主な項目を再掲載したものです。 ③オペレーションモデルとは、調達,生産,販売などの「機能概要」のことで、事業企画案では、現地法人にどの機能を置くかなど、その「機能分担」を概略設定します1)。このステップで詳細に検討する必要はなく、フィージビリティスタディ(F/S)のなかで「検討すべき重要な機能」について、その検証すべき要素を明らかにしておきます。 ④収益モデルとは、「収益を得る仕組み」すなわちビジネスモデルのことです。どこで儲けるのか(収益方法)、また課金・支払いの方法を検討、整理します。 収益方法には、i)製品・サービスそのものによる、またはii)その周辺領域(例えば、附属する消耗品)によるものの二つに大別されます。i)は一回限りの切り売りですので、「フロー型の課金」とも呼べるでしょう。ii)は製品・サービスそのものの利用が続く限り長期的な報酬が期待できる「ストック型の課金」となります。ストック型の課金形態は企業にとっては安定収入となり、売上予測が立てやすくなります。i)のみでなく、ii)によりパフォーマンス向上のための技術サービスを商材化する、いわゆる「製造業のサービス化」の議論が活発化しています2)。そのサービス類型は、製品へのサポートサービス(Services Supporting Products: SSP)と、顧客の行為をサポートするサービス(Services Supporting Clients’ actions: SSC)の2種類に大別されます。SSPによるサービスで得られる顧客ニーズなどの情報は限定的であり、そのため顧客との交流を伴うSSCへの移行を視野に入れて概略企画しておくと良いでしょう。 支払い方法については、誰が、どのようにお金を支払うのか、より円滑となりうる方法を想定しておくことになります。売り手、買い手の双方がストレスやリスクを極力伴わない方法をこのステップで設定しておきましょう。